松は、依代(よりしろ)といって、神霊が招き寄せられて乗り移るものとされていますので、
お正月の門松にされたり、羽衣伝説のように天女が舞い降りる木であったりします。
それは、貝原益軒の「花譜」に「松は百木の長なり。衆木に優れい千年の齢を保ち、
霜雪をおかし、日時常に緑なり。歳寒の操ありて君子の徳にも比せり」とあるように
常緑で樹齢の長い木だからなのでしょう。
結婚式では「高砂」が歌われますが、これは世阿弥元清の作品で、
根が一つで雌雄の幹が左右に分かれた「相生の松」の精である老人夫婦と出会うところから始まり、
夫婦愛、長寿の理想をあらわした謡曲です。
このようなことから 今日の花言葉「不老長寿」があるのだと思います。
不老長寿といえば、大昔からの人類の夢のようで、民話・伝説が世界中のあちこちにあります。
「史記」によると秦の始皇帝が紀元前219年に、徐福という人を童男、童女数千人と共に
蓬莱の三神山に不死の薬を探しに行かせたそうです。
蓬莱の三神山とは、東の海の中にあって仙人が住み、不老不死の地とされる霊山のことで
この徐福が来たという伝説は中国・日本・朝鮮半島に見られます。
日本では富士・熊野・熱田など各地に伝説が残っています。
秦の時代のインディー徐福は、実際にあちこちに現れたのかもしれませんね。
不老長寿の薬といえば、仙人の食べるものであり、松葉とかゴマとか庶民にも
手にはいりそうなものもありますが、実際に手に入るものは効果がないのも目に見えるもので、
庶民にはお目にかかれない高価なものや、実際には存在しないと思われるものが
本物と考えられていたようです。
唐の時代には「丹薬」というものがあったそうですがその成分は、ひ素・硫化水銀で、
愛用した歴代皇帝は不老長寿どころか早死してしまったということもあります。
現代では、脳内ホルモンを科学的に処理した錠剤メラトニンとか、
女性ホルモンの微量投与などがあるようですが、副作用とか実際の効果はどのようなものなのかわかりません。
薬ではなく、人体を冷凍保存して、保存した細胞より再生可能になる時代まで
保管するという方法もありますが、契約料は約1500万円だそうでやはり庶民には手が届かないかもしれませんし、
現代の冷凍方法で果たして大丈夫なものなのかどうか・・・。
ここのところ飛躍的な発展をしている遺伝子工学の世界では、「寿命遺伝子」や「短命遺伝子」の
研究がされていて、いよいよ人間も神になってしまうのかと思われることもありますが、
バベルの塔のようにならないことを願っています。
不老長寿を願うものは、中国の皇帝のように、絶大の権力を握った者が歳をとってきて
死にたくない、いつまでも長生きしたいと私的な考えをしたと思われがちですが、
本来は平和な治世を続けたいという公的な考えであったような気がします。
不老長寿を得た者のお話として、浦島太郎と八百比丘尼(やおびくに)がありますが、
浦島太郎は誰も自分を知るものがないことを悲しんで、不老長寿の権利を放棄してしまいます。
八百比丘尼のお話は知らないかたもいらっしゃるかと思いますので少しご紹介しましょう。
珍しいものをご馳走しましょうと宴席に招かれた村人たちは、得体の知れない肉を食べずに
家に帰る途中で捨ててしまいます。その中で一人家に持ち帰ったものがいました。
その家には美しい娘がおり、父親の土産と思いその肉を食べます。
その肉が不老長寿になる人魚の肉だったのです。
村人たちはいつまでたっても美しいまま年をとらない娘を気味悪がって、
ついに娘は尼になり放浪の旅にでます。娘は行く先々で病気の人を治し、貧しい人を助け
堂社を修造し、道を開き、橋を架け、五穀樹木の繁殖を教え、人が常に守るべき五徳を授けるなど、
世の人々に尽くし、いつまでも若く美しいまま年をとらず、八百歳まで生きた後、
岩屋にこもりお経をとなえながら亡くなりました。
八百比丘尼のお話でも、村人たちは不老長寿の権利を知らぬ間にではありますが、
浦島太郎のように放棄してしまいます。八百比丘尼も知らぬ間にではありますが、
得た権利をどうしたでしょうか、権利と一緒に授かった宿命といいますか、
義務をりっぱに果たし命を終えています。
次の命を残すと同時に自分の命を落とす生物が多いのに比べ、
子育てが終った後も生きる人間の寿命は長いものです。
それは自分自身の子がなくても、社会というものに自分の知識を与えるためといわれています。
普通の寿命よりもずっとずっと長く生きた八百比丘尼のお話がそれを表しているような気がします。
人を統率するというのは徳がなければできないことだと思います。
徳がある人だからこそ人が統率できると言えると思います。
人を統率した古代の権力者が望んだ不老長寿とはやはり、私利私欲からではなく、
不老長寿を授かった後の宿命を果たしたかったのではないのだろうか
と そんなことを思いました。
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